ハタオリの工程

山梨ハタオリ産地では、多彩な素材や技術に対応して分業のシステムが形作られました。沢山の職人が関わることで生まれる織物の工程をご紹介いたします。

1.企画デザイン

織物の色や機能をデザインする工程です。色や柄はもちろん、たとえ無地でも、織物の風合いや用途を決めるための、さまざまな仕様を決定しなくてはなりません。たとえば、糸の素材、番手(太さ)、経糸・緯糸の密度や組み合わせ(織物組織)、撚(よ)り数、織り幅、後加工の種類などです。

2.撚糸(ねんし)

製糸あるいは紡糸されてできた原糸に、必要な回数の撚りをかける工程。糸は撚りを掛けると強度が加えられ固い風合いになり、また撚り数を多くすると収縮力が生まれます。このように撚糸は糸の性質を左右する大切な準備工程です。複数本の糸を合わせて双糸や諸糸にするのも撚糸工程です。

3.綛上げ(かせあげ)

綛(かせ)とは、数百~ 1 万数千メートルの長さの一本の糸を、直径40cm 程度のドーナツ状にまとめたものです。糸を染色するときには、綛で染めるのが昔ながらの方法です。撚糸の終わった糸は、ボビンに巻かれているので、染色する前に、ボビンから綛に巻きなおすための工程、綛上げが必要となります。

4.染色

山梨ハタオリ産地では、染色のなかでも織る前に糸を染める「先染め」が主流です。染色工程では、正確に同じ色を再現することや、色落ちしないようにするための技術が求められます。糸への負担が少なく風合いよく仕上がる綛での染色以外にも、ボビンに巻いて染める「チーズ染色」があり、こちらは大量生産に適しています。

5.繰り返し

染色の終わった糸を、綛から、ボビンに巻いた状態に戻す工程です。ボビンに巻かれた糸は、経糸の場合はこのまま必要な長さや本数などをそろえる整経工程に入ります。緯糸の場合は、レピア織機ではボビンからコーンに巻きなおし(=コーンアップ)、シャットル織機では、さらにコーンから管(くだ)に巻きなおして(=管巻き)から織ります。

6.整経

糸を決められた本数、密度、長さにしたがって並べ、「おまき」に巻き取る工程です。ボビン1 本が経糸1 本になるので、経糸1 万本ならボビンは1 万本分必要になります。しかし実際には部分整経では数百本のボビンからの巻き取りを数十回繰り返し、見本整経では1 ~ 4本程度のボビンから数千回巻き取って1 万本にします。

7.撚り付け

織機にセットされたおまきを、新しいものに交換する際、新旧すべての糸同士を結び付ける工程です。1 本のおまきには数千~ 1 万数千本の糸があり、そのすべてを正しい順序、均等な張力で結ぶには高い技術が必要になります。昔は手で一本ずつ繋いでいましたが、いまは機械式のタイイングマシンを使います。

8.紋意匠

織物を織るとき、経糸と緯糸の交叉(こうさ)を複雑に操ることで、織物組織の違いによる模様を生地上に描くのがジャカード織物です。紋意匠は、図案を織物上で表現するために、経糸と緯糸の組み合わせを考え、意匠図にまとめる工程です。意匠図は紋紙や電子データに変換されて織機に送られます。

9.製織( ハタオリ)

織機にセットされた経糸に、緯糸を織り込む工程です。緯糸を織り込むごとに、経糸を上下に分け「開口」させ、そのあいだに緯糸を通すことで、糸は生地に生まれ変わっていきます。経糸をどのように開口させるかで、無地やチェックなどを織るドビー織機と、複雑な柄が織れるジャカード織機に分類されます。

10.整理加工

織り上がった生地を織機から下ろした状態を「生機(きばた)」といいます。生機は、整理加工により、洗浄、シワ伸ばし、幅の調整などの仕上げをしてから出荷されます。。整理工場では、整理加工と併せて、後加工として様々な機能を生地に与える機能性加工のほか、シワ加工や起毛などの風合い加工も行われます。

11.検反(けんたん)

検反は、仕上がった生地に傷や汚れがないかをチェックする工程です。傷や汚れの種類によっては検反の途中で修復もします。わずかな傷や汚れもトラブルの元になるため、多いときには一枚の生地で裏表4回ずつ、合計8回の検反をすることも。職人の厳しい目と丁寧な仕事が品質を守っています。

糸商

山梨ハタオリ産地では、カーテン地、ネクタイ地、洋服地など、さまざまな織物を作っています。シルク、ポリエステル、綿、キュプラなど、それぞれの用途に適した多くの素材があり、さらに番手(糸の太さ)や撚り数などを合わせると、無数ともいえる種類の糸が必要になります。それらを迅速に生産現場に提供するのが糸商の役割です。

つりこみ

ジャカード織物では、経糸を一本一本操って複雑な模様を織り上げます。このとき、経糸を操り人形のように自在に動かすための糸を「通じ糸(つうじいと)」といいます。つりこみ職人は、ジャカード織機に掛けられた数千~一万数千本の経糸全てに対応する通じ糸を、織機にセットする工程を担う専門の職人です。

ひきこみ、おさぬき

織機は数千~一万数千本の経糸がそれぞれ、緯糸を通す道を作るために経糸を上げさせる道具である綜絖(そうこう)の小さな穴(綜目:あやめ)を通り、経糸切れを知らせるための部品、ドロッパーを通り、さらに筬(おさ)の細い隙間を通るようにして織機に仕掛けられています。ゼロから経糸をセットして織り始めるには、経糸すべてを通し直す、ひきこみが必要になります。

機屋番匠(はたやばんしょう)

織機の修理や組み立てなどを担うのが、機屋番匠という職人です。山梨ハタオリ産地の織機は古いものが多く、部品交換や修理をメーカーに頼ることができません。修理だけでなく、専門の織り方に合わせた改造や、部品から組み立てた織機が稼働するまでの調整など、様々な場面で機屋番匠の技が産地を支えています。